5-2 極端紫外光研究施設(UV S O R )
現在,文部科学省の科学技術学術審議会・研究評価部会・次世代放射光源計画評価作業部会及び日本放射光学会の 先端的リング型光源計画特別委員会で UV S OR 施設を含む既存放射光施設についても検討を行っているところである。 このような背景の中,平成18年2月10日 UV S OR 運営委員会で UV S OR の光源加速器およびビームライン利用研究の 将来計画について議論した。その結果をホームページ上で公開し,利用者の意見も聴取した。以下はそのまとめであ る。
5-2-1 光源加速器の将来計画
2003年に実施した大規模な光源加速器改造及び挿入光源の更新,それに引き続く高周波加速空胴の増強により UV S OR は UV S OR -II へと生まれ変わり,電子ビームエネルギー 1 GeV 以下のシンクロトロン光源としては今や世界で も最も高輝度(低エミッタンス)となった。このエネルギー領域ではスウェーデンで建設中の MA X -III が UV S OR -II を 上回る低エミッタンスとなるものと予想される。今後も世界最高性能の光源性能を維持し,さらに,この高性能を利 用研究に最大限活かしていくために,光源加速器群の高度化を継続する。その骨子は
①トップアップ運転の実現
②ラティスの再改造による高輝度化
③加速器の再配置によるアンジュレータの増強
である。これらを実現することで UV S OR -II は次世代光源 UV S OR -III へとステップアップできる。その一方,UV S OR 施設の特徴となっている新しい光発生法に関する開発研究をさらに推し進めていく。以下では各項目について説明す る。(図参照)
(1) トップアップ運転の実現
トップアップ運転とは,寿命により時間とともに強度の低下する電子ビームに絶えず電子の補給を続けることでビー ム強度を一定に保つものである。ビーム入射による中断なしで利用研究が行えるため研究の効率が向上することはい
うまでもなく,シンクロトロン光強度が一定に保たれることで測定条件が全く変動しないことからデータの質も格段 に向上する。
トップアップ運転を実現する上で,ハードウェア面では,電子入射器のフルエネルギー化と放射線遮蔽の増強の2 つが必須である。現在,入射器の最大エネルギーは 600 MeV であり UV S OR -II に入射後,750 MeVまで加速している。 入射器の設計を見直した結果,電磁石電源の増強のみで 750 MeV まで最大エネルギーを上げることが可能であるとの 見通しを得た。2006年夏に電磁石電源の更新を行う予定で既に作業を開始している。一方の放射線遮蔽の増強につい ても段階的に進めており,2006年夏に完了する予定である。その後1年程度をかけて,入射路のフルエネルギー化,イ ンタロックシステムの構築,入射効率向上のためのマシンスタディなどを行い,技術的な問題を解決した後,必要な 認可を受け,ユーザー運転に導入することになる。
(2) ラティスの再改造による高輝度化
ラティスの再改造の中心は,2003年の高度化改造で手をつけなかった偏向電磁石を更新し,複合機能型とするもの である。ビームラインへの影響をなくすために偏向半径を従来と同じ値に保ちながら,磁極形状をテーパー状にする ことでビーム収束力を発生する。励磁用電源は現在のものがそのまま使えるように設計する方針である。また,真空 ダクトも現状のものが使用できる見通しであるが,一部老朽化が進んでいるものについてはこの機会に更新する。こ の改造により現在建設中の MA X -III と同等の世界トップクラスの高い電子ビーム輝度が実現できる。また,一部の収 束電磁石が不要となるために,これらを撤去することで直線部を更に拡張することができる。
(3) 加速器の再配置によるアンジュレータの増強
拡張された直線部を最大限活用するために,ビーム入射点を B 1 − 2 間の短直線部へ移動し,高周波加速空胴など直 線部に配置されている機器類の再配置を行い,4本の長直線部全てをアンジュレータ設置可能とする。最終的に 4 m直 線部4本と 1.5 m 短直線部2本にアンジュレータが設置できるようになる。
増強された直線部のうち1本(B 8 − B 1 間)は長いビームラインの建設が難しいことから,新しい光源開発専用と して整備する。2基のアンジュレータを直列に配置し,自由電子レーザー,レーザー高調波発生,フェムト秒アンジュ レータ光生成,コヒーレントテラヘルツ光生成を実現できるステーションを検討している。B 4 − 5 間に設置され,放 射光利用と光源開発研究に併用されている可変偏光アンジュレータは,B L 5U として放射光利用専用とする。現在,光 クライストロン用となっている磁石配列を純粋なアンジュレータのものに戻すことで輝度及びスペクトル特性が向上 する。
(4) 自由電子レーザーの高度化
自由電子レーザーは,電子ビームの高輝度化により波長 200 − 300 nm の短波長域で 100 mW 超の実用レベルの高出 力が得られるようになった。波長可変性,偏光可変性,更に放射光との完全同期という特性を活かして,希ガスの二 光子励起実験,生体物質への照射実験などに利用されてきた。通常型レーザーと競合する波長域であるが,利用者が 必要とする波長を直ちに供給できる円偏光レーザー光源設備として活用される道が,現在,開けつつある。また,蓄 積リング自由電子レーザーとしては世界的にも最も安定且つ強力であり,共振器型自由電子レーザーの基礎技術開発 を行うための世界的拠点としての役割を担っている。5U は放射光利用専用にし,1U に新たな専用ステーションを建設 する。
(5) 新しい光発生法の研究推進
2005年度より開始した外部レーザーと電子ビームを併用した光発生法の研究では,わずか数ヶ月の研究期間で,コ ヒーレントな大強度テラヘルツ光の生成,コヒーレント高調波の生成に成功し,世界的にもトップレベルの研究が行 えるようになった。無論,国内では他の追随を許していない。これは UV S OR -II のビームエネルギーが低いために可視 領域のレーザーと電子ビームを効率よく相互作用させることができること,UV S OR -II加速器群が比較的小型で小回り がきくために実験装置の構築・立上が極めて短期間で行えることによるところが大きい。UV S OR -II 加速器の特長を最 大限活かせる研究分野であり,また,将来の超高性能電子加速器を用いた短波長コヒーレント光発生の基礎となる技 術開発も含まれており,今後も 1U に拠点を移すなど強力に推進し,小型リングの位置づけを確固たるものにしていく。
5-2-2 ビームライン利用研究の将来計画
分子科学の大きな柱である光分子科学では,レーザー光源・放射光源の性能を活かし切って先端的研究を推進して いくことが目標になっている。現状の放射光科学においては光源そのものの性質が末端のサイエンスを大きく左右す る状況を脱していないため,世界的競争の中で絶えず光源と分光器の性能向上が不可欠である。と同時に光源の特性 を十分引き出すための測定装置の性能向上も不可欠である。レーザーの短波長化は進んでいるが,V UV から軟X線に かけて分光器を使って自由にエネルギー領域を選択できる特徴は放射光以外にはあり得ない。一方,フェムト秒パル スでコヒーレントな特性を持つ光源はレーザー(直線加速器を使った自由電子レーザーも含む)以外にはあり得ない。 このような先端的レーザーの特性から見れば,放射光のパルス特性は前時代的となっており(特に UV S OR のように周 長が短く電子ビームエネルギーの小さな小型リングでは),通常の放射光を利用する限り,連続光的に使ったサイエン スに集中した方がよくなってきていると考えられる。
UV S OR -II への高度化の前までの UV S OR 施設では光量(フラックス)の多さと得られる光の波長の広さを利用する 典型的な第2世代光源における研究が中心であった。UV S OR 光源加速器のラティスは C hasman-Green型といって直線 部を多数持てるいわゆる第3世代高輝度(低エミッタンス)光源の基本形になっているが,偏向電磁石からの放射光 を専ら利用してきた流れではその特徴を生かし切ってこなかったことになる。世界的な主流が第2世代光源から第3 世代光源に切り替わり,直線部に挿入したアンジュレータの高輝度性を利用した高分解能分光研究にシフトしている 中で,UV S OR 施設でも5年ほど前から光源加速器を本来の第3世代光源として強化し直す高度化の検討を進め,平成 14年度にはその予算が認められた。UV S OR -II に生まれ変わってからは,世界トップクラスの高分解能分光研究に重点 を移しており,光源の高輝度性を十分引き出すためのビームライン(分光器と測定装置)の性能向上を進めてところ である。
(1) アンジュレータ利用研究
現在,ハードウェア的には 4 m の長直線部が3カ所,1.5 m の短直線部が2カ所に通常のアンジュレータが挿入でき る。現在建設中のものを含めると残されるものは 1.5 m の短直線部が一カ所だけである。
浅い V UVアンジュレータ B L 7U 高分解能固体光電子分光
深い V UVアンジュレータ B L 5U 高分解能固体光電子分光,新しい光発生法の研究(F E L等) 軟X線領域アンジュレータ B L 3U 高分解能光電子・吸収・発光分光
軟X線領域アンジュレータ B L 6U 分光ラインは未設置 未設置直線部 B L 4U
B L 7U
現在建設中の B L 7U は固体物性研究で最も重要なフェルミ端∼価電子帯の高分解能光電子分光実験を可能とする国 際的に競争力のあるアンジュレータビームラインであり,深い V UV 領域のアンジュレータ光を利用できる B L 5U とは エネルギー領域が相補的で,6 eV∼ 40 eVをカバーする。第3世代高輝度 V UV ・軟X線光源計画が東京大学の事情で 頓挫したために,UV S OR で早急に対応すべき研究分野となり,施設利用が前提になっている。ただし,国際的に競争 力のあるラインなので,以下のような運用を当面考えている。
・立ち上げ後2∼3年間は優れた所外研究者とともに協力研究や課題研究を中心に成果を挙げる。
・その後,施設利用で利用者を拡大する
B L 5U
既存の B L 5U は 10 ∼ 250 eVの広いエネルギー範囲をカバーし,円・直線偏光が使える施設利用汎用アンジュレー タビームラインである。末端の装置とアンジュレータはそのままで現分光器さえ高度化すれば国際的に競争力のある ラインに生まれ変わる。しかし,B L 7U を作る以上,B L 5U は当面運用を止め,その維持費運用に加え,B L 5U の末端 の装置を B L 7U で転用して使うこと,また,アンジュレータは自由電子レーザー等,光源グループの R & D で利用して いくことを当面の方針とした。ところが,その後の見積りで B L 7U 用に装置を改造すると予算がかなりかかることが 判明した。また,B L 7U があったとしても 40 eV∼ 250 eV の領域の固体研究用アンジュレータが国内的にも非常に少 なく,分光器を高度化しなくても需要が非常に高いことも確認された。さらに,光源グループによる新しい光発生法 の開拓的研究を発展させて実用フェーズまで持っていくには新たに B L 1U で展開した方が有利であるとの判断もなさ れた。以上の結果,B L 7U の末端装置は B L 5U からの転用ではなく新たに導入することにし,B L 5U は現状で利用を続 け,B L 7U 建設後に予算を獲得して分光器を更新する方針になった。
B L 3U
B L 3U は S Pring-8では利用が不可能な低い軟X線領域をカバーするもので,世界トップレベルの分子科学研究を展開 するために他にない超高分解能装置(クラスター光電子分光装置と軟X線発光分光装置)を開発整備しているもので ある。所内研究・協力研究用ラインであるが,今後,装置が順調に成果を出せるようになった暁には施設利用的な利 用も考えていく。
B L 6U、B L 4U
B L 6U には B L 3U と同じタイプで長さが約半分の真空封止軟X線アンジュレータが設置されるが,当面,スリットレ ス分光器導入のためのビーム位置精密制御に関する R & D のために使う。もともとは R & D のために製作された真空封 止アンジュレータ1号機として B L 7U に設置されていたが,R & D で使う前に所内研究者側の強い要望で照射ライン化 されたので,R & D を行う時間がとれなかったものである。1,2年の R & D 後,具体的な分光器の建設を考える。B L 6U 分光器新設と B L 5U 分光器更新の優先順位は,今後,放射光科学の動向や UV S OR 利用者の動向を見極めて決める予定 である。
B L 4Uの建設はさらにその先になると考えているが,挿入光源や分光技術の開発研究も見極めながら将来計画を立案 する。
(2) 新しい光発生法による利用研究開拓
すでに述べたが,現在,B L 5U を使って行っているいろいろな新しい光発生法研究は B L 1U に最適な挿入光源を建設 することで新たな展開を図る。その際,B L 1A は移設することになる。F E L については 200 nm 以下を実用モードにし て,超高分解能光電子分光や価電子帯の表面磁性顕微分光などの開拓研究を行う。また,大強度コヒーレントテラヘ ルツ光による伝導電子励起分光も実現させる。高調波発生やフェムト秒パルス発生などに対応する利用研究も考えて いく。
(3) 偏向電磁石ビームライン利用研究
アンジュレータラインの強化によりアンジュレータで行うのと同じ種類の実験を偏向電磁石ラインで行う意義はな くなった。その一方で高輝度化によって,ビームの広がりが小さくなったため偏向電磁石からの放射光を水平分散 200 mrad以上でも非常に精度良く集光することが可能になっている。通称マジックミラーと呼ばれるミラーで集光する。そ のことを生かせば偏向電磁石ビームラインであっても以前よりはるかに高フラックスで高分解な実験ができる。今後 は,水平分散を小分けにしてビームラインをむやみに増設することはせずに,マジックミラーを導入して,8カ所の 偏向電磁石にはそれぞれ分光器を1基ずつ設置する方針にしている。ビームラインの名前の付け方もアンジュレータ ラインは U,偏向電磁石ラインは B として,統一を図る。直線部で挿入光源を入れていないところでは U の代わりに Aの名前を使うラインが若干,残っているが,今後,挿入光源の導入計画に合わせて廃止か空いた B ポートに移設す るかを考える。この方針によると8カ所の直線部と8カ所の偏向電磁石部に最大16基の分光器が入ることになる。現 在,ビームラインは13本(施設利用9本、所内研究・協力研究用4本)まで絞り込まれている。
B L 6B
マジックミラーを使った赤外・テラヘルツ領域の施設利用分光ラインである。放射光によるテラヘルツ分光ライン としては世界最強であり,高輝度性を利用した顕微分光などイメージング技術も併用して利用研究を拡大していく。
B L 1B 、B L 7B
V UV の浅い領域をカバーする施設利用分光ラインである。同じエネルギー範囲のアンジュレータライン B L 7U は高 輝度を要求する高分解能光電子分光を中心にしているが,B L 1B ,B L 7B は輝度を要求しない光吸収・発光分光を中心 としている。V UVレーザー固体素子の評価,物性基礎データ測定,材料評価にルーチン的に利用している研究者が多 い。可視・紫外から真空紫外まで基本的な光学的性質を押さえるのに不可欠な汎用ラインとして重要であり,他施設 は力を入れていないこともあり,UV S OR で今後も維持の必要がある。
B L 5B 、B L 8B 2、B L 2B
これらの分光ラインでは V UV から浅い軟X線がカバーされる。例えば,炭素で考えると,価電子準位と内殻電子準 位のギャップに当たるエネルギー領域であり,価電子のイオン化や高い励起を起こす。同じエネルギー範囲の施設利 用アンジュレータラインとしては B L 5U がある。B L 5U は高分解能光電子分光中心に利用が図られているのに対し,施 設利用ラインの B L 5B と B L 8B 2 ではそれぞれ特徴的な利用がなされている。B L 5B は機器校正用装置が常設されてい るユニークなラインであり,反射率の測定などが行われている。この種の実験では高いエネルギー分解能を必要とし ないので,分光器はかなり古くなってはいるが,当面,そのまま維持することを考えている。B L 8B 2 では放射線損傷
や帯電,真空汚染などの可能性があって取り扱いの難しい有機薄膜・界面の研究を中心に精力的に光電子分光実験を 行っている。分光器は建設後20年経っているが,これまで光学素子の再コート以外の手は入れずに,末端の装置の整 備を行ってきた。分子科学の一つの重要分野を支えている他にない装置なので,施設利用の需要はいつも 100% を越え ている。施設としては,分光器の老朽化が深刻になる前に再構築について考えておく必要がある。また,B L 2B は比較 的新しい所内研究・協力研究用ラインであり,現在,気相分子を対象とした研究が行われている。UV S OR が得意とす るこのエネルギー領域で多様な利用研究に対応するためには,将来的にB L 2B の施設利用ラインへの転用も視野に入れ ておく必要があろう。
B L 8B 1、B L 4B
偏向電磁石部で炭素∼酸素の内殻電子準位をカバーできる軟X線ビームラインは2基ある。同じエネルギー範囲の アンジュレータラインとしては B L 3U がある。施設利用ライン B L 8B 1 は主に固体の吸収分光に利用されているが,分 光器が老朽化しており利用者の増加は望めない。B L 8B 1 と B L 8B 2 はブランチを作らない方針もあり再構築を考え始め る必要がある。一方,B L 4B は比較的新しく建設された所内研究・協力研究用ラインであり,現在,活発な協力研究・ 民間利用によって気相分子,表面磁性,生体関連分子,半導体材料,触媒等に関する研究が行われている。将来的に は施設利用ラインへの転用も視野に入れているが,B L 4B は現在 100% の利用率(需要は 150% 程度ある)なので,B L 8B 1 をB L 4B に切り替えるだけでは済まない。化学にとって重要なこのエネルギー領域で多様な利用研究に対応するために は,他施設との競争力を見極めながら新たに偏向電磁石ラインあるいはアンジュレータライン(B L 6U)の建設も検討 する必要がある。
B L 1A
UV S OR で最も高エネルギーの軟X線を供給する二結晶分光器の施設利用分光ラインである。UV S OR のような低エ ネルギー施設ではあまり得意とするエネルギー領域ではなく現在は1基だけになった。他施設では使い勝手がよくな いためか,現在,固体材料や触媒関係の比較的若手の研究者が固体の吸収分光を中心に利用している。今後も汎用ラ インとしての整備が必要であろう。ただし,U V S ORの臨界波長よりも短波長側は光強度の点で非常に不利であり, B L 1A ではシグナル強度を稼ぐために試料を塗布した電子増倍管を使った測定が行われている。このような測定方法は 改善の余地がある。光源の方で強度を稼ぐにはマジックミラーを用いてフラックスを上げるようにするか,挿入光源
(B L 4U で対応可能)を利用するかが考えられるが,一方で分光結晶の放射線損傷が大きな問題になる(過去に UV S OR でのウィグラー利用で経験済み)。回折格子の利用も検討する必要がある。光源グループの B L 1U 建設計画に合わせて 移設か再構築かを考える。